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アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症とは

アルツハイマー型認知症とは、何らかの原因で脳にアミロイドβという特殊なたんぱく質が溜まり、神経細胞が破壊され、大脳の側頭葉にある「海馬」が萎縮する認知症です。初期には、加齢による物忘れと似た症状が起こり、次第に物忘れの程度がひどくなり、やがて以前できたことが少しずつできなくなります。昔のことは比較的よく覚えていますが、新しいことが覚えられなくなります。また、日時や曜日などの時間や場所がわからなくなったり、物を盗まれたと思い込んだり、徘徊したりすることもあります。


アルツハイマー型認知症の原因

アルツハイマー型認知症は、脳の細胞外にβタンパクが溜まることによって、細胞内のτタンパクという異常なたんぱく質が変性して神経細胞機能が阻害されて破壊され、脳が縮むことによって起こります。萎縮は記憶に関する海馬から始まりやがて脳全体に広がります。若年の場合は、頭頂葉内側部などから障害される傾向があります。症状は物忘れや失行・失認や怒りっぽいなどの精神症状から始まり、年単位の時間をかけて比較的ゆるやかに進行します。


アルツハイマー型認知症は遺伝する?

アルツハイマー型認知症は遺伝することがわかっており、アルツハイマー型認知症の約10%を「家族性アルツハイマー病」が占めます。家族性アルツハイマー病などの家族性認知症は、いくつかの遺伝子異常によって起こることが報告されています。また、若年で発症する認知症の一部は家族性のものであると考えられています。当院ではApoE遺伝子検査やMCIスクリーニングなどの、健康なうちに将来の確率をみる自費検査もございます。


アルツハイマー型認知症の症状

認知機能障害

認知機能障害とは、判断を下したり、言葉を記憶したり、物事に注意を向けたり、これらに基づいて行動を起こすことが困難である状態です。アルツハイマー型認知症になると、昔のことは覚えている一方、新しい出来事を記憶できなくなり、出来事自体をすぐに忘れてしまいます。食事をしたことを忘れるという症状がよく知られています。進行すると、年月日や曜日、時間、今いる場所、家族の顔などを忘れてしまうことがあります。また、行き慣れている場所で迷ってしまったり、判断力や理解力が低下することで、作り慣れている料理の味付けを失敗したり、会計の際の計算ができなくなったりします。

BPSD(行動・心理症状)

BPSDとは、認知症の人に見られる行動や心理症状のことです。やる気が起きない、興味や関心が持てない、抑うつ、興奮、妄想、暴力、徘徊、昼夜逆転、焦燥、執着などが特徴的です。

身体面の症状

運動神経の中枢が最後に障害されるため、進行がかなり進むまでは、身体症状は起こりません。


アルツハイマー型認知症の治療

アルツハイマー型認知症は、根本的な治療法がないため、症状の進行を遅らせるための薬物療法やリハビリテーションが行われます。

薬物療法

薬物療法では、脳内の神経伝達物質を調整することで認知機能の低下を遅らせる薬を用いて治療を行います。

コリンエステラーゼ阻害薬

コリンエステラーゼ阻害薬とは、脳内の神経伝達物質のアセチルコリンの量を増やし、認知機能を改善することでアルツハイマー型認知症の症状を遅らせる薬です。主に軽度から中等度のアルツハイマー型認知症の治療に用いられます。代表的な薬剤としてドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンがあります。最近は、ドネペジルの貼付剤や根本治療薬であるレカネマブが上市されました。

NMDA受容体拮抗薬

NMDA受容体拮抗薬とは、NMDA受容体に結合することで、過剰に分泌された神経伝達物質のグルタミン酸がNMDA受容体を活性化させることを防ぎ、神経細胞の損傷を防ぐことで、アルツハイマー型認知症の症状を遅らせます。代表的な薬剤にメマンチンがあります。

適度な運動

適度な運動は心血管疾患のリスクを下げ、脳血流が改善するため、認知機能の維持につながります。

バランスの良い食事

抗酸化作用のある食品やオメガ-3脂肪酸を含む食品、イチョウ葉エキスを摂取することは脳の健康の維持につながることが示されています。

十分な睡眠

質の良い睡眠は脳の働きを良くし、記憶力や認知機能に良い影響を及ぼします。睡眠不足とアルツハイマー型認知症発症の相関性が示されました。

社会的なつながり

友人や家族、地域の人などと交流することは、精神的な健康につながり、認知機能の低下を防ぐことにつながります。

脳トレーニング

パズルや数独、言葉遊びなどの脳トレーニングは認知機能の低下を遅らせることにつながります。本人が楽しいことが条件となります。


アルツハイマー型認知症の新薬レカネマブについて

レカネマブは、アミロイドβ抗体薬でアミロイドβを除去することで、病状の進行を遅らせる新薬です。神経細胞の働きを促進する効果をもつこれまでの治療薬とは作用の仕方が異なります。レカネマブの薬価は保険適用の場合、200mgで45,777円、500mgで114,443円であり、2週間に1回投与する必要があるため、保険支払いも自己負担分も治療が非常に高額になります。認知症は老化現象のひとつですので、治るわけではなく、進行を遅らせる効果があると考えます。

レカネマブについて


アルツハイマー型認知症
に関するよくある質問

アルツハイマー型認知症の進行速度はどれくらいですか?

アルツハイマー型認知症は、進行がゆるやかな認知症とされています。発症初期に物忘れが見られてから、日常生活に支障をきたす中等度の段階に達するまでには、一般的に3〜5年ほどかかります。その後、重度に至るまでにはおよそ10年前後を要するケースが多いです。ただし、進行の速さは一人ひとり異なり、生活習慣や合併疾患、社会的な支援の有無、治療内容などによって変わります。アルツハイマー病(アミロイドβ蓄積がある)場合は、進行が速い可能性が高いです。薬物療法やリハビリテーション、社会的活動を続けることで、進行を緩やかにできる可能性があります。

アルツハイマー型認知症の看護で重要なことはなんですか?

看護においては、安心できる生活環境の維持と本人の尊厳を守る支援が大切です。患者様が混乱や不安を感じないように、生活リズムを一定に保ち、落ち着いた口調でゆっくりと話しかけることが効果的です。また、本人ができることを尊重し、必要以上に手を出さず、自立を支える姿勢が求められます。さらに、介護する家族や支援者が孤立しないように、地域や専門職によるサポート体制を整えることも重要です。

アルツハイマー型認知症の診断基準について教えてください。

アルツハイマー型認知症の診断は、問診・神経心理検査・画像検査・血液検査などを組み合わせて総合的に行います。診断の際には、国際的に用いられる「DSM-5(精神疾患の診断と統計マニュアル)」や「NIA-AA(米国国立老化研究所とアルツハイマー協会)基準」が参考にされます。主な診断要件は以下の通りです。

  • 徐々に進行する認知機能の低下
  • 記憶障害を中心とした複数の認知領域の障害
  • 社会生活や日常動作に支障をきたす
  • 他の疾患や薬剤の影響では説明できない

MRIやPET検査では、海馬や側頭葉の萎縮、アミロイドβの沈着などが確認されることがあります。当院では、MRI検査にも対応していますので、気になる症状がありましたらお気軽にご相談ください。

アルツハイマー型認知症になった場合の寿命はどれくらいですか?

アルツハイマー型認知症の発症から死亡までの期間は、平均して8〜12年程度と報告されています。ただし、症状の進み方には幅があり、5年以内に重度化する方もいれば、15年以上ゆるやかに進行する方もいます。寿命を左右するのは認知症そのものではなく、誤嚥性肺炎や感染症、低栄養などの合併症です。早期の診断と適切な治療、生活環境の整備によって、生活の質(QOL)を長く保つことが期待できます。

アルツハイマー型認知症になった場合の顔つきなどの身体的特徴はありますか?

アルツハイマー型認知症に特有の顔つきや外見上の特徴はありません。ただし、症状が進むと表情の動きが減る、反応が鈍くなる、身だしなみを整えることが難しくなるといった変化がみられる場合があります。これらは脳機能の低下や意欲の減退によるもので、病気の直接的な身体的特徴ではありません。見た目の変化よりも、行動や言動の変化が早期発見の重要な手がかりとなります。

アルツハイマー型認知症の進行要因はどんなものがありますか?

アルツハイマー型認知症の進行を早める可能性がある要因には、次のようなものがあります。

  • 高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病
  • 喫煙や過度な飲酒
  • 運動不足や社会的孤立
  • 睡眠の質の低下や慢性的なストレス
  • 脳血管疾患の併発
  • 認知的刺激の少ない生活

一方で、定期的な運動やバランスのとれた食事、良質な睡眠、社会との交流を保つことは、進行を遅らせる要素として知られています。

アルツハイマー型認知症を治すことは可能ですか?

現時点の医学では、アルツハイマー型認知症を完全に治す方法は確立されていません。この疾患は、脳内にアミロイドβやタウタンパクといった異常なたんぱく質が蓄積し、神経細胞が少しずつ損傷・消失していくことで進行します。一度失われた神経細胞を再生することは難しいため、根本的な治癒(完治)は現在のところ不可能とされています。ただし、進行を抑える治療は存在します。コリンエステラーゼ阻害薬(例:ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)やNMDA受容体拮抗薬(例:メマンチン)は、神経伝達物質の働きを整えて記憶力や判断力の低下を緩やかにする効果が認められています。さらに、近年ではアミロイドβを除去する抗体薬(レカネマブなど)が登場し、初期の段階で投与することで認知機能の悪化を遅らせることが期待されています。薬による治療に加え、適度な運動・バランスの取れた食事・良質な睡眠・社会との交流などの生活習慣の見直しも、脳の健康維持に役立つとされています。早期の診断と治療を受けることで、できるだけ長く自立した生活を続けることが可能です。

この記事の執筆者

院長 日暮 雅一 ひぐらし まさかず

院長日暮 雅一 ひぐらし まさかず

略歴

1999年 横浜市立大学医学部 卒業
横浜市内複数の基幹病院で修練
2005年 小田原市立病院 
脳神経外科主任医長
(2005年度 脳神経外科部長代行)
2009年 横浜市立大学大学院医学研究科
脳神経外科助教
(2011年度 脳神経外科教室医局長)
2012年 Australia Macquarie大学留学
医工連携学research fellow
2014年 新緑脳神経外科・
横浜サイバーナイフセンター医長
2016年 ほどがや脳神経外科クリニック開設
2019年 医療法人社団 正念 設立

資格

  • 医学博士(神経薬理学)
  • 日本脳神経外科学会専門医
  • 日本頭痛学会専門医/指導医
  • 日本脳卒中学会専門医/指導医
  • 日本認知症学会専門医/指導医
  • 認知症サポート医
  • 日本医師会認定産業医
  • 身体障害者福祉法15条指定医(肢体不自由 言語咀嚼)
  • 難病指定医
  • 自立支援指定医療機関(てんかん)

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