大島聡人先生快挙!-Journal of Neurosurgery 当院椎骨動脈解離論文掲載(大島先生ご寄稿)
横浜市立大学脳神経外科より当院代診にきている大島聡人先生の努力により、Journal of Neurosurgeryという脳神経外科領域のトップジャーナルに、当院椎骨動脈解離研究論文が掲載されました。過去には小生も論文は筆頭著者として、論文を書いてきましたが、Journal of Neurosurgeryには、到底手が届きませんでした。以下、大島先生よりご寄稿いただきました。
本文はこちら→The impact of initial vascular morphology on outcomes in patients with intracranial vertebral artery dissection presenting with isolated headache
さて、本論文は、「椎骨動脈解離」という疾患に関するものです。
椎骨動脈とは、脳に栄養を供給する重要な血管の一つで、特に脳幹や小脳に栄養を送っています。この血管の壁が何らかの原因で内部から剥がれてしまう病気を椎骨動脈解離と呼びます。この状態が進行すると、最悪の場合、命に関わる「くも膜下出血」や「脳梗塞」を引き起こす可能性があります。
日本では特にこの疾患が多く見られ、くも膜下出血や脳梗塞を伴う椎骨動脈解離については多くの研究が行われてきました。しかし、最近ではMRIなどの画像診断技術の進歩により、くも膜下出血や脳梗塞を伴わない軽症の椎骨動脈解離の患者さんが診断されることが増えています。これらの患者さんは、一般的には予後が良いとされていますが、中には重大な合併症を発症するケースもあり、その予後についてはまだ十分にはわかっていませんでした。そこで、私たちは当院で診断された椎骨動脈解離の患者さんのデータを詳細に分析し、その予後を明らかにしました。その上で、特にどのような患者さんで注意すべきか、またその上でのフォローアップ方針についても提示した論文になります。その成果を高く評価していただき、今回JNSの掲載に至りました。
本論文の要点は以下のとおりです。
・椎骨動脈解離は、頭痛で来院した患者の約1%に発見された(これまで考えられていたよりも多い疾患である)
・当院では105例の急性期の本疾患の患者さんを安定期(中央値約1年半)まで追跡し、くも膜下出血や脳梗塞に至った症例はゼロであった(基本的には、予後は良好である)
・しかし、3例では経過中に動脈瘤が拡大し、破裂予防前に手術を要した方がいる。その3例は、診断から手術までが約3週後、2年後、3年後であり、発症からかなり時間がたっても血管形態が変化する方がいることが判明した。
・これら3症例には共通した画像的な特徴がみられた(そのため、この特徴を有する方は特に注意を要し、長期間フォローアップするべきである)
Legend: 上記の画像で、「グループ1」と分類した、「動脈瘤の拡張を伴い、狭窄がない」形態を示す患者さんは要注意です。
本研究成果が、本疾患の標準的なマネジメントとして普及していくことができたら、大変意義のあることと思います。
このレベルのジャーナルになると、多くは大学病院などの大規模病院からの研究がほとんどであり、今回単独のクリニックのデータだけで採択されたことは極めて稀少です。
世界的なジャーナルに評価された要因として、
・初診時の診断から経過観察まで、適切かつ比較的長期間のMRIフォローを行なっていたこと
・具体的なプロトコルで経過観察と治療のマネジメントをおこなっていたこと
・椎骨動脈解離は日本人に多く、欧米ではより希少疾患であり知見が乏しかったこと
などが挙げられます。
当院では、引き続き学術面でも最新の治験をアップデートし、本研究成果のように当クリニック発の知見も発信をしていきたいと考えています。