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脳幹出血

脳幹出血とは

脳幹出血とは、脳の中心部にあり、呼吸や血圧の維持などの生命機能の根幹を司る「脳幹」に起こる出血のことです。脳幹は大脳に近い方から「中脳」「橋」「延髄」の3つの部分にわかれており、脳幹出血は主に「橋」の部分に生じることが多いです。脳幹出血の主な原因は高血圧であるとされています。脳幹出血を発症すると、頭痛や吐き気が起こり、出血が多い場合には意識障害や呼吸障害、四肢の麻痺、眼球運動障害などを生じます。脳幹出血は脳出血の中でも重篤な経過をたどることが多い疾患です。


脳幹出血の原因

脳幹出血の主な原因は高血圧による動脈硬化です。脳幹部に栄養を送る血管に動脈硬化が生じ、脆くなり、ふとした瞬間に血管が破れ、出血が起こると脳幹出血となります。動脈硬化は、食生活の乱れや運動不足、ストレス、喫煙、高血圧、糖尿病、高脂血症などが関連して起こります。なお、脳幹出血は血管の奇形を原因として発症する場合もあります。


脳幹出血の症状

脳幹出血は出血量によって症状が異なり、小さな脳幹出血の場合は出血した箇所の脳機能に関する症状が現れます。小さな脳幹出血の場合の症状として多いのは、眼球運動障害(ものが二重にみえる)や顔面の麻痺、片耳の難聴、嚥下困難、手足の運動麻痺、感覚障害などになります。眼球運動障害は眼球運動のどこが障害されたのかによって、片目の動きの障害だったり、両目の左右方向への動きの障害だったりと異なります。また、麻痺や感覚障害は左右の片側に生じることが多いですが、血腫の程度によっては両側に生じることもあります。大きな出血の場合は、意識障害が起こります。脳幹は小さな構造体であるため直径2~3cmの出血でも大きな出血であり、死亡する可能性が高くなります。また、脳幹出血が破れて、大量の血液が脳幹の後ろにある第四脳室に及ぶと、閉塞性水頭症を引き起こし、意識障害が起こることもあります。


脳幹出血の検査・診断

脳幹出血を診断する際には、脳幹の出血を確認するために頭部MRI検査を行います。当院では、状況に応じて即日頭部MRI検査を行えます。脳幹出血でクリニックに歩いてくることは可能性とは低いですが、第四脳室の腫瘍や動静脈奇形などから微小出血を起こすこともあります。

MRI検査


脳幹出血の治療

脳幹出血の治療は、血圧の管理や脳の浮腫みに対する対処療法などの保存的な治療を行います。また、脳幹出血を生じると呼吸循環動態が不安定になるため、輸血や循環作動薬の使用、挿管による人工呼吸管理などを行います。挿管期間が長くなる場合は、気管を切開して呼吸管理を行う場合があります。また高血圧や糖尿病、高脂血症を管理することを目的として内服薬が使用されることもあります。脳幹は脳の奥深くにあり、手術によって得られるメリットはあまりないとされています。なお、脳室内に出血が生じた場合には脳室ドレナージ術が検討されます。麻痺や意識障害などの神経学的な後遺症が残る場合は、症状に応じたリハビリテーションが検討されます。脳幹出血の原因は動脈硬化であることが多いため、動脈硬化を避けるために、適度な運動や体重管理、適切な食生活、禁煙、ストレスの発散なども重要です。


脳幹出血の予後

高血圧を原因とする脳幹出血の場合、重篤化すると、急激に状態が悪化し、発症から数時間から数日で亡くなってしまいます。また、脳幹出血により脳のすべての機能が停止し、人工呼吸器などのサポートを外すと生命機能が維持できない「脳死」の状態になってしまうこともあります。一命をとりとめたとしても、脳の障害を受けた範囲が大きいと、後遺症が残ることもあります。一方、血管の奇形を原因とする脳出血の場合は、症状が軽く、比較的早めに回復する傾向にあります。一回の出血で命に関わることは稀です。しかし、脳幹内の海綿状血管腫が出血した場合は出血を繰り返すことで、大きくなるため、重い後遺症を残すことがあります。これらは、脳ドックなどで未然にリスク評価することが可能です。)


脳幹出血に関するよくある質問

脳幹出血の前兆(初期症状)は何ですか?

脳幹出血は発症が非常に急で、前兆がないことも多いですが、発症直前に「強いめまい」「ふらつき」「ろれつが回らない」「顔のしびれ」「手足の力が入りにくい」などの症状がみられることがあります。また、軽い頭痛や吐き気、物が二重に見える(複視)といった視覚異常が前触れとなることもあります。これらの症状が突然現れた場合は、早急に救急受診が必要です。

脳幹出血になると後遺症は残りますか?

はい、多くの場合で何らかの後遺症が残ります。脳幹は、運動・感覚・呼吸・意識など生命維持に関わる中枢が集中しているため、出血によって四肢麻痺、顔面麻痺、言語障害、嚥下障害、眼球運動障害、さらには意識障害などが残ることがあります。出血の大きさや部位によっては、長期のリハビリが必要となる場合もあります。

脳幹出血の生存率はどれくらいですか?

脳幹出血は非常に重篤な病気であり、出血量が多い場合には致死率が高く、一般的には30〜50%程度が死亡するとされています。ただし、早期に発見され、出血が小さい場合には救命できることもあります。集中治療やリハビリにより、日常生活に戻れる方も一部いらっしゃいます。まずは気になる症状がありましたら、お早めにご相談ください。

脳幹出血になると意識が戻らないですか?

脳幹は「意識の維持」を担う部分でもあるため、出血が広範囲に及ぶと深い意識障害や昏睡状態に陥ることがあります。重症の場合、意識が回復しないまま長期にわたって人工呼吸管理が必要になることもあります。ただし、出血が小さい場合や早期に治療できた場合には、徐々に意識が戻るケースもあります。

脳幹出血は手術で治りませんか?

脳幹は生命中枢が密集しているため、手術による直接的な出血除去は非常に難しく、リスクが高いとされています。多くの場合は、血圧のコントロールや脳圧管理、呼吸管理などを行う「保存的治療」が中心になります。ただし、出血が外側に限局しており圧迫が強い場合など、限られたケースでは外科的治療が検討されることもあります。

脳幹出血になると瞳孔に変化が見られますか?

はい、見られることがあります。脳幹には瞳孔の大きさや反応を調整する神経が通っているため、出血の影響で瞳孔が左右で異なる大きさになったり、光を当てても反応しなくなることがあります。これは神経の損傷や脳圧の上昇を示す重要なサインです。

脳幹出血になりやすい人(特徴)は何ですか?

最も大きな危険因子は高血圧です。長期間の高血圧により細い脳血管がもろくなり、破れやすくなります。特に血圧を適切に管理していない中高年男性に多くみられます。また、喫煙、過度の飲酒、脂質異常症、糖尿病、ストレスなどもリスクを高める要因です。

この記事の執筆者

院長 日暮 雅一 ひぐらし まさかず

院長日暮 雅一 ひぐらし まさかず

略歴

1999年 横浜市立大学医学部 卒業
横浜市内複数の基幹病院で修練
2005年 小田原市立病院 
脳神経外科主任医長
(2005年度 脳神経外科部長代行)
2009年 横浜市立大学大学院医学研究科
脳神経外科助教
(2011年度 脳神経外科教室医局長)
2012年 Australia Macquarie大学留学
医工連携学research fellow
2014年 新緑脳神経外科・
横浜サイバーナイフセンター医長
2016年 ほどがや脳神経外科クリニック開設
2019年 医療法人社団 正念 設立

資格

  • 医学博士(神経薬理学)
  • 日本脳神経外科学会専門医
  • 日本頭痛学会専門医/指導医
  • 日本脳卒中学会専門医/指導医
  • 日本認知症学会専門医/指導医
  • 認知症サポート医
  • 日本医師会認定産業医
  • 身体障害者福祉法15条指定医(肢体不自由 言語咀嚼)
  • 難病指定医
  • 自立支援指定医療機関(てんかん)

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