頭痛薬の選び方
「頭痛」といっても、片頭痛や緊張型頭痛、群発頭痛、発熱を伴う頭痛など、症状や原因によりさまざまな種類があります。まずは、ご自身がどのタイプに該当するか確認し、適切な薬を選択しましょう。
なお、患者さんご自身で頭痛薬を選択され、なかなか改善しない場合は、頭痛を専門に治療している当院までご相談ください。状況次第ですが、頭痛の原因を確認するためのMRI検査を受診日当日にて受けていただくことも可能です。
頭痛の種類
片頭痛
軽い片頭痛であれば、市販のロキソプロフェンやイブプロフェンを含む鎮痛薬で対応可能です。痛みが強い場合は医療機関を受診し、より効果的な治療薬や予防薬を相談しましょう。
緊張型頭痛
最も多く見られる頭痛で、軽度ならロキソプロフェン・イブプロフェン・アセトアミノフェン入りの薬が有効です。血行不良が原因の場合が多いため、カフェイン入りの薬は避ける方がよいこともあります。
群発頭痛
非常にまれな頭痛で、市販薬では効果がほとんどありません。疑いがある場合は早めに医療機関で診察を受けましょう。
発熱を伴う頭痛
風邪の症状(喉の痛み・鼻水・咳など)がある場合は、総合感冒薬が適しています。抗ヒスタミンや鎮咳去痰成分により、複数の症状を緩和できます。
頭痛薬の成分
イブプロフェン
イブプロフェンは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)のひとつで、炎症や痛みの原因となる物質を抑えて痛みや発熱を軽減します。軽度の片頭痛や生理痛、風邪による喉の痛みや関節痛にも効果があります。服用時は胃腸への負担を避けるため、食後に飲むことが推奨されます。
ロキソプロフェン(ロキソニン)
ロキソプロフェンもNSAIDsに分類され、鎮痛・抗炎症・解熱のバランスが良く、痛みに対する作用が強いのが特徴です。片頭痛や緊張型頭痛などの痛みが強い場合に即効性が期待できます。ただし、小児や妊婦には使用できないため、その場合は医師と相談のうえアセトアミノフェンなどを選択します。胃腸障害が起こることがあるため、長期使用には注意が必要です。
エテンザミド
エテンザミドもNSAIDsに分類される解熱鎮痛薬で、脳の中枢神経に働きかけて痛みの伝達を抑える作用があります。そのため、繰り返し起こる頭痛や慢性的な頭痛の痛みを和らげることが期待されます。胃腸への負担は比較的少ないものの、腎機能に問題がある方は医師に相談することが望ましいです。
アセトアミノフェン(カロナール)
アセトアミノフェンは非ピリン系解熱鎮痛薬で、脳の中枢神経に作用して痛みや熱を下げます。抗炎症作用はほとんどありませんが、胃腸や腎臓への負担が少なく、15歳以下の小児や妊婦でも使用できます。軽度から中等度の片頭痛や緊張型頭痛に適しており、安全性の高い薬として幅広く使われています。ただし、用量を守らないと肝障害のリスクがあります。
頭痛薬は予防と治療で使い分ける?
急性期治療(発作時の対処)
急性期治療は、頭痛が起きたときに痛みや症状をやわらげるための薬です。片頭痛であれば、鎮痛薬(ロキソプロフェン、イブプロフェン、アセトアミノフェンなど)が軽〜中等度の痛みに使われます。痛みが強い場合は、トリプタン系薬剤を用いることもあります。緊張型頭痛では、比較的軽い鎮痛薬やアセトアミノフェンが有効です。重要なのは、痛みが出てからできるだけ早く服用することで、薬の効果が高くなる点です。また、服薬回数が多くなると「薬物乱用頭痛(リバウンド頭痛)」のリスクがあるため、用量や回数を守ることが大切です。
処方薬
トリプタン系(片頭痛専用)
片頭痛発作の痛みを抑えるために特化した薬です。血管の異常な拡張を抑える作用と、三叉神経の過敏化を抑制する作用を持ち、痛みや吐き気を軽減します。発作が起きてからできるだけ早く服用するほど効果的です。
スマトリプタン(イミグラン、スミトリプタンOD錠)
即効性があり、発作の初期段階から使用されます。注射や口腔内崩壊錠、通常の錠剤など剤形が多く、吐き気が強いときにも対応可能です。
リザトリプタン(マクサルト、マクサルトMLT)
口腔内崩壊錠があり、水なしで服用できます。作用は比較的速く、発作時の吐き気がある患者さんにも便利です。
ナラトリプタン(ナルミグラン)
他のトリプタン系より作用時間が長く、頭痛が長引く場合や再発防止に適しています。副作用は比較的軽いとされます。
エレトリプタン(レルパックス)
強い発作や再発傾向がある場合に選択されます。作用時間が長く、持続する頭痛にも対応可能です。
NSAIDs(鎮痛・抗炎症作用)
ナプロキセン(ナイキサンなど)
長時間作用型のNSAIDsで、片頭痛が数時間続く場合や痛みが強いときに使用されます。炎症や痛みの原因物質を抑え、頭痛を和らげます。胃腸障害のリスクがあるため、服用時には注意が必要です。
その他(エルゴタミン製剤(エルゴタミン配合錠))
片頭痛専用の薬で、発作時の血管拡張を抑えます。ただし、使用回数や1回量が制限されており、過剰使用すると心血管リスクが高まるため、現在は使用が限定的です。医師の管理下でのみ使用されます。
市販薬
ロキソプロフェン(ロキソニンS、ロキソニンSプラス)
鎮痛・解熱・抗炎症作用を持つNSAIDsです。片頭痛や緊張型頭痛、軽い風邪の痛みや生理痛などにも効果があります。服用は食後が望ましく、胃腸に負担をかけにくいタイプです。
イブプロフェン(バファリン、イブA錠、イブクイック頭痛薬)
NSAIDsのひとつで、炎症や痛みの原因となる物質を抑えて頭痛をやわらげます。軽度から中等度の片頭痛や緊張型頭痛に使用されます。カフェイン配合のものは効果が早く出る場合があります。
アセトアミノフェン(カロナール錠OTC版、タイレノールA)
解熱・鎮痛作用があり、胃腸への負担が少ないため小児や妊婦にも比較的安全に使用できます。抗炎症作用はほとんどなく、軽度の片頭痛や緊張型頭痛に向いています。
予防(頭痛を起こさないための対策)
予防治療は、頭痛の発作自体を減らすことを目的に行う薬です。片頭痛が月に数回以上ある、あるいは日常生活に支障がある場合に検討されます。予防薬には、β遮断薬やカルシウム拮抗薬、抗CGRP抗体注射(エムガルディ・アジョビ・アイモビーグ)などがあり、一定期間継続して使用することで頭痛の頻度や重症度を軽減します。開発中の内服型CGRP受容体拮抗薬(リメゲパント、アトゲパント)も、将来的には予防薬として選択肢になる可能性があります。予防薬に即効性はありませんが、毎日または定期的に使うことで頭痛の発生自体を抑え、生活の質を向上させる効果が期待できます。
経口薬(内服)による片頭痛予防
β遮断薬
β遮断薬は、心臓や血管に作用して片頭痛の発作が起きにくくする薬です。プロプラノロール(インデラル)は心拍数や血圧を安定させ、血管の過度な反応を抑えることで発作頻度を減らします。高血圧や不整脈の治療にも使われますが、疲労感や冷え、低血圧、心拍数低下の副作用が出ることがあります。ビソプロロール(メインテート)は作用が比較的穏やかで、心臓への負担を抑えながら予防効果を発揮するため、長期間の使用に向いています。
カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬は血管の収縮や拡張の異常を抑え、片頭痛発作の起こりにくい状態を作ります。塩酸ロメリジン(ミグシス)は、血管の過度な変動を和らげることで三叉神経への刺激を抑え、頭痛の発作を減らします。副作用として、めまい、倦怠感、足のむくみなどが報告されることがあります。
抗うつ薬
抗うつ薬は神経の過敏性を抑えることで、痛みが起こりやすい状態を改善します。アミトリプチリン(トリプタノール)は片頭痛の発作頻度を減らすと同時に、睡眠の質を改善する効果もあります。副作用として、口の渇き、眠気、体重増加、便秘などが出る場合があります。夜間に頭痛が起きやすい患者さんに適した薬です。
抗てんかん薬
抗てんかん薬は神経の過敏化を抑え、片頭痛の発作再発を防ぐ目的で使用されます。バルプロ酸ナトリウム(デパケン)は神経の過剰な興奮を抑えて発作頻度を減らしますが、妊娠中の使用は避ける必要があり、吐き気、食欲増加、肝機能異常の副作用があります。トピラマート(トピナ)は神経の過敏化を抑制し、頭痛発作の再発を防ぎます。副作用として眠気、めまい、体重減少、集中力低下が出ることがあります。
注射薬(生物学的製剤・CGRP抗体)
片頭痛の予防注射は、片頭痛発作に関わる物質「CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)」を中和・阻害することで、発作の回数や重症度を減らす治療薬です。生物学的製剤であるため、内服薬とは異なり胃腸で分解されず、皮下注射で体内に直接投与されます。
ガルカネズマブ(エムガルディ)
月1回の皮下注射(初回2本)で、CGRPを中和することで三叉神経からの刺激を抑え、片頭痛の発作頻度を減らします。効果は比較的速やかに現れ、継続することで頭痛日数が長期的に減少することが報告されています。
フレマネズマブ(アジョビ)
月1回または3か月に1回の皮下注射で、長期的に頭痛の頻度を減らす効果があります。注射間隔を選択できるため、患者さんのライフスタイルに合わせやすく、安全性も比較的高く長期使用のデータも蓄積されています。
エレヌマブ(アイモビーグ)
月1回の皮下注射で、CGRPを阻害する作用が強く、発作予防に高い効果が報告されています。長期使用でも安定した予防効果が期待できます。
開発中・海外で使用される薬(内服型CGRP受容体拮抗薬)
注射ではなく内服でCGRPを阻害できる薬も開発されています。
リメゲパント
急性期治療(発作時)だけでなく、予防目的でも臨床試験が進められています。内服薬であるため、注射が苦手な方でも使用できる可能性があります。
アトゲパント
予防目的として臨床試験中で、日本でも承認申請が進められています。将来的には、注射に代わる内服での片頭痛予防が可能になることが期待されています。
頭痛の薬に関するよくある質問
頭痛が起きたとき最初にすることは何ですか?
まずは安静にして頭痛の程度を確認しましょう。軽度の片頭痛であれば市販薬が効果的です。ただし、痛みが強い場合や繰り返す場合は、医療機関を受診し、より効果的な治療薬や予防薬を処方してもらうようにしましょう。
頭痛薬(NSAIDs)と片頭痛予防薬はどのように違いますか?
NSAIDs頭痛薬は痛みや炎症を抑制する一般的な鎮痛薬で、市販でも入手することが可能です。一方、片頭痛予防薬は、片頭痛の発作や頻度を抑制するための薬です。片頭痛に対してNSAIDsが効かないことも多いため、発作の根本的なものを抑えるために片頭痛では予防薬(アジョビ®など)や急性期治療薬(トリプタン・ジタン系)を使用することがあります。
NSAIDsを飲み続けても問題ないですか?
長期間にわたるNSAIDsの使用は、胃や腎臓に負担をかけ、薬物乱用頭痛の原因となることがあります。痛みが頻繁にある場合、医師に相談し、片頭痛に効果的な治療薬、予防薬に切り替えていくことが重要です。
片頭痛の予防薬はどんなときに使用しますか?
月に4回以上片頭痛がある場合、あるいは発作が重く日常生活に支障をきたす場合に片頭痛の予防薬を使用します。脳へのダメージや認知機能低下を防ぐ目的でも使用します。
トリプタンとジタンの違いは何ですか?
トリプタンは血管を収縮させ、痛みを抑える薬です。主に片頭痛の発作時に使用します。一方、ジタンは新しいタイプの薬で、血管収縮は起こらず、トリプタンの服用ができない脳血管疾患や心疾患を患っている方にも使用できます。血管収縮作用がないため、適応と安全性を確認のうえ使用を検討できる場合があります(眠気等の副作用・運転制限に注意が必要です)。
頭痛があるときは、どのように薬を選べば良いでしょうか?
頭痛の原因により選択する薬を変えましょう。筋肉のこりによる緊張型頭痛の場合はNSAIDs、片頭痛や群発頭痛の場合はトリプタンやジタンが有効です。帯状疱疹や神経痛の場合には神経障害性疼痛治療薬が有効となります。頭痛の原因が不明な場合、あるいは市販の頭痛薬で改善しない場合、処方薬を服用してもなかなか改善しない頭痛にお悩みの場合、頭痛治療が可能な脳神経外科である当院までご相談ください。
頭痛薬の成分により効果や注意点は違いますか?
はい。イブプロフェンやロキソプロフェンは鎮痛・抗炎症・解熱作用があり即効性がありますが、胃腸に負担がかかる場合があります。アセトアミノフェンは胃腸への負担が少なく安全性が高く、子どもや妊婦でも使用可能です。エテンザミドは中枢神経に作用し、慢性的な痛みにも効果が期待されます。
片頭痛の薬を飲むと眠くなるのはなぜですか?
トリプタンやジタンの中には、中枢神経に作用して眠気やふらつきをもたらすものがあります。初回に関しては、夜間や休日に試していただくことを推奨します。

