くも膜下出血とは
くも膜下出血とは、脳を包む膜である「くも膜」の内側を走る脳の血管にできた動脈瘤が破裂することで起こる出血のことです。突然の激しい頭痛や吐き気、嘔吐、意識障害などの症状を起こします。くも膜下出血は繰り返し発生することが多いため、命の危険性が高く、手術などで出血に対する治療を行っても、後遺症の残る場合が多いです。日本でのくも膜下出血の発生率は年間で人口10万人に対し20人程度で、50~70代に多く見られます。また、発生リスクは30~40歳を超えると高くなるとされています。くも膜下出血の原因は約80~90%が脳動脈瘤の破裂です。脳動脈瘤は突然に発生するものではないため、MRI検査を受け脳の血管を調べることで早期発見することができます。ある程度の大きさの脳動脈瘤が発見された場合は、破裂の危険性が高いため、破裂する前に適切な治療を行うことでくも膜下出血を予防します。当院では、脳ドックや頭痛精査などで偶然見つかるケースもあります。即手術というわけではなく、部位により対応が変わります。破裂して歩いてくるくも膜下出血の場合は、即病院で対応が必要です。当院では、妥当な対応を提示いたします。
くも膜下出血の原因
くも膜下出血の主な原因は、くも膜下の脳主幹動脈にできる未破裂瘤が破裂することです。実際に日本人のくも膜下出血の発症は約90%が脳動脈瘤の破裂によるものです。脳動脈瘤はなぜ発生するのかははっきりとわかっていませんが、血管の分岐部などの弱い部分にできやすい傾向があります。脳動脈瘤は自覚症状がないため、MRI/MRA(血管の検査)による精密検査で発見されます。なお、脳動脈瘤は先天的な「嚢状動脈瘤」と生活習慣病などによる動脈硬化が関連する動脈瘤、ストレスや動脈硬化による「解離性動脈瘤」の3種類に分けられます。一部の「嚢状動脈瘤」は家族発症が認められているため、ご家族内にくも膜下出血や未破裂の脳動脈瘤が見つかった方は、発見される可能性が高いとされています。脳動脈瘤の発見には、脳ドックの受診がお勧めです。脳ドックの受診者の約5%の方に小さいながらも未破裂の脳動脈瘤が発見されています。くも膜下出血は性差のあまりない疾患であるため、男女問わず40代で一度、脳ドックを受けておくことをお勧めします。
くも膜下出血の症状
くも膜下出血が起こったときの典型的な症状は激しい頭痛や意識障害、嘔吐です。特に頭痛は、今までに体験したことがないような激しい頭痛であるとされており、バットで殴られたような頭痛と表現されることもあります。頭痛を感じないことも多く、突然意識を失うこともあります。いびきをかいて寝たようになることもあります。その他にも、嘔吐や目の痛みなどの症状が現れることもあります。これらの症状は予兆ではなく、くも膜下出血の症状であるため、症状が現れたら直ちに救急外来を受診するようにしましょう。意識障害を伴わない場合は迷いますが、歩ける場合は当院へご来院ください。
くも膜下出血の前兆
くも膜下出血には前兆があるとされており、脳動脈瘤があり、生活習慣病がある場合には、血圧をこまめに計測し、心当たりのない血圧の急上昇・急降下があったらすぐに受診しましょう。また、他の前兆として「警告頭痛」と呼ばれる急な頭痛が起こる場合があります。警告頭痛の強さはさまざまであるとされています。他にも、目の痛みや物が二重に見える、まぶたが下がる、めまい、吐き気、頭がモヤモヤするなどの前兆症状が起こる場合があります。なお、前兆症状はしばらくすると治ることが多く、その数日後に大きな発作を起こすことが多いとされています。これらの前兆症状を感じた場合はすぐに受診してください。
くも膜下出血の治療
くも膜下出血の治療において重要なのは、くも膜下出血の再出血を防ぐことです。くも膜下出血は再出血してしまうと、深刻な状況に陥りやすく、命の危険につながります。再出血を起こさないために、手術を行う場合があります。未破裂の脳動脈瘤は、できた部位やサイズ、形状によって破裂しやすさが変わりますが、経過観察で増大が認められるものは破裂の確率が高いとされています。脳動脈瘤の中には手術が困難なものもありあすが、未破裂の脳動脈瘤は基本的に手術で治療することでくも膜下出血を予防することができるとされています。詳しくは、MRI、MRA検査を行い、脳動脈瘤の状態をくも膜下出血の起こる前に診断することが必要です。なお、くも膜下出血は脳動脈瘤の他に、脳動静脈奇形や脳動脈瘤解離でも起こることがあります。
くも膜下出血の予防
くも膜下出血は、脳動脈瘤の破裂によって起こることがほとんどであるため、未然に脳の血管の脳動脈瘤の存在を検査しておくことがくも膜下出血を予防するうえで重要です。その他の原因となる脳動静脈奇形や解離性脳動脈瘤についてもMRI検査によって調べておくことで、出血を防ぐための治療が行えます。
いつもよりも強い頭痛
いつもよりも強い頭痛が生じた場合は、できるだけ早く受診しましょう。必要に応じてMRI検査を受けることをお勧めします。また、一人で悩まず、家族や友人に頭痛のことを伝えてください。一方、頭痛のないくも膜下出血もあり、頭に何かあったかな?と思われたら受診ください。
長く続く頭痛
長く続く頭痛がある場合や、薬を飲んでもあまり効かない頭痛の場合は、脳卒中の可能性もありますが、蓄膿症や薬の飲みすぎによる薬物乱用頭痛も疑われます。長期間にわたり市販の頭痛薬を飲み続けていると、薬の副作用などの影響が体に出ることもあるため、一度受診されると良いでしょう。
命に関わる頭痛
脳卒中や脳腫瘍などの疾患によって起こる頭痛は、命に関わることがあり緊急の受診を要します。頭痛のほとんどは緊張型頭痛や片頭痛、神経痛などの命に関わることがない頭痛ですが、中には脳卒中などの重篤な頭痛が隠れていることもあるため、一度MRI検査を受けて調べておくと安心です。
くも膜下出血に関するよくある質問
くも膜下出血で多い後遺症は何ですか?
くも膜下出血の後にみられる主な後遺症には、記憶力や判断力の低下などの高次脳機能障害、手足が動かしにくくなる運動麻痺、言葉が出にくくなる失語症、けいれん発作などがあります。さらに、出血後に脳の血管が再び収縮する「脳血管攣縮」が起こると、脳の一部に血流が届かなくなり脳梗塞を引き起こすことがあり、これも後遺症の一因となります。
後遺症の程度は、出血の範囲や重症度、治療までの時間、患者様の年齢や基礎疾患の有無などによって変わります。ただし、早期に適切な治療とリハビリを行うことで、失われた機能の回復を目指すことができます。
くも膜下出血の生存率は?
くも膜下出血は、脳卒中の中でも死亡率が高い重篤な疾患です。発症した方のうち、約3分の1が命を落とし、約3分の1は何らかの後遺症を残して回復し、残りの約3分の1はほぼ元の生活に戻れると報告されています。特に、発症後の数時間から数日のあいだに再出血を起こすと死亡率がさらに上昇します。しかし近年では、CTやMRIによる早期診断と、開頭クリッピング術や血管内コイル塞栓術などの治療法の進歩によって、救命率や予後は改善傾向にあります。くも膜下出血が疑われる場合は、できるだけ早く医療機関を受診し、迅速に治療を受けることが重要です。
くも膜下出血の家族歴がある場合は発症リスクは高まりますか?
くも膜下出血の主な原因である脳動脈瘤には遺伝的な要素が関与することがあり、家族内での発症がみられるケースが報告されています。そのため、親や兄弟姉妹など近い血縁者に脳動脈瘤やくも膜下出血を起こした方がいる場合は、一般的な人よりも発症の可能性が高いと考えられています。特に40歳以降はリスクが高まるため、MRIやMRAを用いた脳ドックの受診が推奨されます。もし未破裂の脳動脈瘤が見つかった場合には、その大きさや形、部位などに応じて経過観察を行うか、破裂を防ぐための治療を検討します。
くも膜下出血の再発防止には何をしたらよいですか?
くも膜下出血の再発を防ぐためには、再出血につながる危険因子を減らす生活習慣の見直しが欠かせません。具体的には、次のような取り組みが重要です。
- 血圧を安定させること(高血圧は再出血の最も大きな要因とされています)
- たばこを吸わない
- 飲酒を控える
- 脂質や血糖の値を適切に管理する
- 十分な睡眠をとり、過度なストレスを避ける
- MRIやMRAによる定期的な経過観察を受ける
さらに、未破裂の脳動脈瘤が見つかっている場合には、医師の判断に基づき、クリッピング術やコイル塞栓術といった再発予防のための外科的治療を検討することもあります。
くも膜下出血で死亡するまでの時間はどのように決まりますか?
くも膜下出血で亡くなるまでの時間は、出血の量や起こった部位、再出血の有無、そして治療までにかかった時間によって大きく左右されます。発症直後に多量の出血が脳全体へ急速に広がった場合には、数分から数時間のうちに意識を失い、呼吸や心拍が停止してしまうこともあります。一方で、出血の範囲が限られている場合や、発症後すぐに救急搬送され適切な治療を受けた場合には、救命できる可能性が高まります。特に、再出血が起こると致死率が急激に上昇するため、発症から数時間以内が最も危険な時間帯と考えられています。「経験したことのない激しい頭痛」や意識の変化が現れたときは、迷わず救急車を呼び、速やかに医療機関を受診することが大切です。

