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三叉神経・自律神経性頭痛
(TACs:Trigeminal autonomic cephalalgias)

三叉神経・自律神経性頭痛
(TACs:Trigeminal autonomic cephalalgias)とは

三叉神経・自律神経性頭痛三叉神経・自律神経性頭痛(TACs:Trigeminal autonomic cephalalgias)とは、三叉神経第1枝領域に生じる激しい片側性の頭痛と、同側の目や鼻に現れる自律神経症状(結膜充血、流涙、鼻汁、鼻閉、眼瞼下垂など)を特徴とする頭痛の総称です(伴わないケースもあります)。代表的な疾患には、群発頭痛、発作性片側頭痛(Paroxysmal Hemicrania)、SUNCT/SUNA(短時間持続性片側神経痛様頭痛発作)症候群などがあります。これらは発作の持続時間や頻度、治療反応性に違いがあり、それぞれに治療法が変わるため、正確な診断と適切な治療が重要です。TACsはまれではありますが、生活に大きな影響を及ぼすため、診断に慣れている医師でなければ見逃してしまう可能性もあります。


三叉神経・
自律神経性頭痛の原因

三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)は、三叉神経と自律神経系の異常な相互作用によって引き起こされると考えられています。三叉神経は顔面の感覚を司る神経であり、自律神経系は涙や鼻水などの分泌を調整します。TACsでは、これらの神経回路が過剰に活性化されることで、強い片側性の頭痛とともに涙や鼻づまりなどの症状が現れます。特に群発頭痛では、体内時計を調整する視床下部の関与が示唆されており、発作が決まった時間に起こることと関連しています。発作性片側頭痛(PH)やSUNCT/SUNAでは、脳幹部の神経活動異常が背景にあるとされ、まれに脳腫瘍や血管異常などが原因となることもあります。多くの場合、根本的な原因は不明ですが、誘因や二次性の要因を除外することが診断において重要です。


三叉神経・
自律神経性頭痛の分類

三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)は、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)において、以下の4つの疾患に分類されています。それぞれ、片側性の激しい頭痛と同側の自律神経症状(涙、鼻汁、結膜充血など)を特徴としますが、発作の持続時間・頻度・治療法などに違いがあります。

群発頭痛

群発頭痛は、主に20〜40代の男性に多く見られる頭痛ですが、近年では女性も増加傾向にあります。一度発症すると、ほぼ毎日のように、日に数回、1回あたり1-2時間の強度の頭痛が起こる時期が1〜2か月ほど続きます。このような発作が集中する期間は「群発期」と呼ばれ、発作がまったく起こらない「寛解期」は数か月から数年に及ぶことがあります。
群発期の間は、決まった時間帯に激しい片側の頭痛が現れ、同時に涙や鼻水などの自律神経症状を伴います。夜勤などで睡眠時間が変わる場合は、頭痛発作時間帯も変化する可能性があります。頭の片側や目の奥にかけて、15分〜3時間ほど耐えがたい痛みが続き、「目の奥がえぐられるような痛み」と表現されることもあります。じっとしていられず、苦しみながら動き回る方もいます。
また、アルコールはほぼ確実に発作を引き起こすため、群発期には飲酒を控えることが大切です。そのほか、飛行機や潜水などの気圧変化でも誘発されます。

群発頭痛

発作性片側頭痛

中年女性に多く、中等度から重度の頭痛が、数分~30分間続く発作として1日に1回以上現れることがあります。痛みは片側の頭部に限局し、同じ側の目に涙が出たり、結膜の充血を伴うのが特徴です。
痛みの部位は主に目の奥やこめかみ周辺で、痛みのタイプは、群発頭痛の短時間バージョンといった形で、日により多く発作を繰り返します。

SUNHA(短時間持続性片側神経痛用頭痛発作/Short-lasting Unilateral Neuralgiform headache attacks)

最近までは、充血の両方が見られる「SUNCT(サンクト)」と、どちらか一方または他の自律神経症状がみられる「SUNA(スナ)」に分類されていました。「単発的にズキッと刺すような痛み」「短時間に複数回繰り返す刺痛」「絶え間ない痛みに鋭い痛みが重なる鋸歯状(きょしじょう)の痛み」があります。連発する鋸歯状のケースでは、発作が10分ほど続くと感じることもあります。
このような鋭い痛みは三叉神経痛と似ていますが、SUNHAは自律神経症状を伴う点が異なります。発作は1日に何十回も繰り返されることがあり、鋭い刺すような痛みや電撃痛が突然起こります。刺激によって誘発されることも多く、ひげ剃りや歯みがきなどの顔面への軽い刺激がきっかけとなることがあります。治療には抗てんかん薬(ラモトリギンなど)が用いられますが、効果には個人差があります。まれな疾患ですが、生活の質に大きな影響を与えることがあるため、専門的な診断と治療が重要です。

持続性片側頭痛

発作性片側頭痛に類似の、中等度の頭痛が、1日中持続します。痛みは片側の頭部に限局し、同じ側の目に涙が出たり、結膜の充血を伴うのは発作性片側頭痛の特徴と類似しています。ただし、発作が短時間で改善せずだらだらと一日中続くのが特徴です。

分類名 発作持続時間 発作頻度 特徴的な点
群発頭痛(Cluster Headache) 15分〜3時間 1〜8回/日 群発期に集中して起こる。視床下部との関連。予防薬・酸素・トリプタンが有効。
発作性片側頭痛
(Paroxysmal Hemicrania)
2〜30分 数回〜数十回/日 インドメタシンに著効。女性に多い。
SUNHA 5〜240秒 多発 強い電撃痛+結膜充血・流涙。治療は抗てんかん薬。
持続性片側頭痛 5〜240秒 多発 SUNCTに類似。流涙や鼻漏の一方だけ、またはその他の自律症状。

三叉神経・
自律神経性頭痛の検査・診断

三叉神経・自律神経性頭痛の検査・診断三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)の診断は、症状や発作の特徴を詳しく聞き取ることから始まります。発作の持続時間、頻度、痛みの性質、左右どちらかの片側性であることや、涙や鼻水などの自律神経症状の有無を丁寧に確認します。これらの情報から、群発頭痛や発作性片側頭痛(PH)、SUNHAなどのTACsの種類を推測します。まずは、脳腫瘍や血管異常などの他の原因疾患を除外するために、頭部MRI検査が重要です。特に視床下部や三叉神経周辺の異常を確認することで、二次性頭痛の可能性を低くできます。診断には専門医の評価が不可欠であり、適切な治療計画を立てるために正確な診断が求められます。
当院は、MRI検査にも対応していますので、気になる症状がありましたらお気軽にご相談ください。

MRI検査


三叉神経・
自律神経性頭痛の治療

三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)の治療は、発作の種類や症状に応じて異なりますが、主に急性発作の緩和と予防薬の2つの側面からアプローチします。専門医の診断と治療計画が重要です。
急性期の治療では、群発頭痛では高濃度酸素吸入やスマトリプタン製剤(点鼻や注射)が効果的で、発作の痛みを速やかに抑えられます。群発頭痛の予防療法として、カルシウム拮抗薬のベラパミルや副腎皮質ステロイドの短期投与が一般的です。
発作性片側頭痛(PH)では、インドメタシンの予防的投与で効果がえられます。
SUNHAでは抗てんかん薬(ラモトリギン、カルバマゼピンなど)が用いられます。


三叉神経・
自律神経性頭痛に関する
よくある質問

三叉神経・自律神経性頭痛とはどのような頭痛ですか?

顔の感覚をつかさどる「三叉神経第一枝」の痛みと、涙や鼻水の分泌を調整する「自律神経」が起こる、非常に強い片側の頭痛です。発作の際には、同じ側に涙や鼻づまり、結膜の充血などがみられるのが特徴です。

三叉神経・自律神経性頭痛はこめかみが痛みますか?

片方の目の奥・こめかみ付近に痛みを感じることがあります。三叉神経は顔の感覚をつかさどる大切な神経で、「眼のまわり(第1枝)」「頬(第2枝)」「あご(第3枝)」に分かれています。特に第1枝が関係している場合、こめかみや目の周囲に鋭い痛みが走ることがあります。

自律神経と三叉神経痛の関係は何ですか?

自律神経は、体のリズムや血管の収縮・拡張をコントロールする神経です。一方、三叉神経は顔面や脳を包む膜や脳内の血管の感覚を伝える神経ですが、両者は脳幹や三叉神経節周囲で密接に関係していると考えられています。自律神経が乱れると、神経が過敏になり、三叉神経痛を誘発または悪化させることがあります。また、強い痛みが続くことで自律神経にも影響し、睡眠障害や倦怠感などを伴うこともあります。

三叉神経・自律神経性頭痛のグループにはどのような病気がありますか?

代表的なものは以下の通りです。

  • 群発頭痛(群発性頭痛):片側の目の奥やこめかみに強い痛みが出て、涙や鼻水を伴います。1-2時間程度持続し、飲酒で増悪すること、飛行機や潜水などの圧力変化で誘発されます。1か月程度で改善することがありますが、長く続く場合もあります。人間の三大疼痛のひとつで、「自殺頭痛」と言われるほど痛みが強く出る場合があります。
  • 発作性片側頭痛:中年期の女性に多く見られます。群発頭痛と類似の症状ですが、1回の発作が10-30分とやや短いのが特徴です。インドメタシンが著効します。
  • SUNHA(以前のSUNCT/SUNA):群発頭痛と類似の症状ですが、1回が1-600秒とり短く、鋸歯状パターンになると、持続痛として訴えることがあります。ラモトリギンなどの抗てんかん薬が有効なケースがあります。

鑑別すべき疾患は以下の通りです。

  • 副鼻腔炎(蓄膿症):顔の痛みや圧迫感があり、鼻づまりや発熱を伴うこともあります。
  • 歯の神経痛(歯性疼痛):虫歯や歯周病などが原因で、あごや頬に痛みが出ます。
  • 帯状疱疹:三叉神経に沿って水ぶくれや皮膚の痛みが出ることがあります。

痛みの性質や部位、持続時間を丁寧に確認し、画像検査などで鑑別を行うことが大切です。

三叉神経・自律神経性頭痛は治りますか?

適切な診断と治療により1か月程度で改善することが多いですが、長く続く・忘れたころに反復するといったことがあります。生活の質を保つためにも、早めの受診をおすすめします。

この記事の執筆者

院長 日暮 雅一 ひぐらし まさかず

院長日暮 雅一 ひぐらし まさかず

略歴

1999年 横浜市立大学医学部 卒業
横浜市内複数の基幹病院で修練
2005年 小田原市立病院 
脳神経外科主任医長
(2005年度 脳神経外科部長代行)
2009年 横浜市立大学大学院医学研究科
脳神経外科助教
(2011年度 脳神経外科教室医局長)
2012年 Australia Macquarie大学留学
医工連携学research fellow
2014年 新緑脳神経外科・
横浜サイバーナイフセンター医長
2016年 ほどがや脳神経外科クリニック開設
2019年 医療法人社団 正念 設立

資格

  • 医学博士(神経薬理学)
  • 日本脳神経外科学会専門医
  • 日本頭痛学会専門医/指導医
  • 日本脳卒中学会専門医/指導医
  • 日本認知症学会専門医/指導医
  • 認知症サポート医
  • 日本医師会認定産業医
  • 身体障害者福祉法15条指定医(肢体不自由 言語咀嚼)
  • 難病指定医
  • 自立支援指定医療機関(てんかん)

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